皆さん、こんにちは！
私たちが普段耳にする血液型といえば、A型、B型、O型、AB型の4種類、そしてRhプラス・マイナスですよね。私も、自分の性格や健康との関連を調べて、身近な話題として楽しんでいます。
しかし、血液の世界は私たちが思っているよりもはるかに深く、そして時として驚くほど「レア」な側面を持っています。今回皆さんにご紹介するのは、**「ボンベイ・タイプ（Bombay Type）」**と呼ばれる、一般のO型とは全く異なる、きわめて特殊で希少な血液型です。医学的には$O_h$（オーエイチ・フェノタイプ）とも呼ばれます。
この血液型は、その希少性ゆえに「幻の血液型」とも称されており、私たちに遺伝子の複雑さと医療現場での課題を教えてくれます。私も初めてボンベイ・タイプについて学んだ時、血液型という概念が根底から覆されたような衝撃を受けました。
今回は、このボンベイ・タイプが一体どのような血液型なのか、なぜO型と間違われやすいのか、そしてそれが医療にどのような影響を与えるのかを、わかりやすく解説していきたいと思います。
1. ボンベイ・タイプとは？ 遺伝子の設計図の「欠落」
ボンベイ・タイプは、インドのムンバイ（旧称ボンベイ）で1952年に発見されたことにちなんで名付けられました。その発見以来、世界中で調査されていますが、その頻度は極めて低く、一般的な集団では25万人に1人、あるいはそれ以下とされています。
この血液型の最大の特徴は、一般的なABO式の血液型を決定する際の「土台」となる抗原（H抗原）が、赤血球上に存在しないことです。
H抗原とは「血液型の土台」
私たちがA型やB型になるためには、まず赤血球の表面に「H抗原」という物質が作られる必要があります。
A型遺伝子を持つ人は、H抗原にA型の印を付けます。
B型遺伝子を持つ人は、H抗原にB型の印を付けます。
O型遺伝子を持つ人は、H抗原をそのままの状態（H抗原のみ）で残します。
しかし、ボンベイ・タイプの人は、遺伝子の突然変異により、このH抗原そのものを作り出すことができません。
これは、畑に作物（AやB）を植えるための「土壌（H抗原）」がない状態と同じです。結果として、A型やB型の遺伝子を持っていても、それらを発現させる場所がなく、見た目上はどの抗原も持たない状態、つまり「H抗原欠損」となるのです。
$h/h$遺伝子の役割
H抗原を作るには、$H$遺伝子（FUT1遺伝子）が必要です。ボンベイ・タイプの人は、この$H$遺伝子に変異があり、機能しない**$h/h$**というホモ接合体を持っています。
この遺伝子的な背景こそが、ボンベイ・タイプを一般的なO型と決定的に区別する要因です。通常のO型は$H$抗原を持っているのに対し、ボンベイ・タイプは持っていません。
2. 標準的な血液型との違い：抗体の存在
ボンベイ・タイプがなぜ医療現場で大きな問題を引き起こすのか、それは彼らが持つ「抗体」に秘密があります。
血液型と抗原・抗体
血液型は、赤血球の表面にある抗原（目印）と、血漿中にある抗体（異物と認識して攻撃する物質）の組み合わせによって決まります。
例えば、A型の人は抗B抗体を持っているので、B型の血液が体内に入ると攻撃が始まります。
血液型 赤血球上の抗原 (Antigen on RBC) 血漿中の抗体 (Antibody in Plasma) 誰から輸血可能か
A型 A, H 抗B A, O
B型 B, H 抗A B, O
O型 H 抗A, 抗B O
ボンベイ ($O_h$) (なし) 抗A, 抗B, 抗H ボンベイのみ
ボンベイ・タイプの最大の特徴：抗H抗体
この表から分かるように、ボンベイ・タイプは抗H抗体を持っています。
これは、彼らにとってH抗原を持つ血液（つまり、A型、B型、O型、AB型の全て）が「異物」として認識されることを意味します。
私もこれを理解したとき、「つまり、普通のO型が最も輸血が難しい血液型ではないのか！」と驚愕しました。通常のO型は万能ドナーですが、ボンベイ・タイプにとっては「毒」になってしまうのです。
3. 医療現場での課題：輸血の危機
ボンベイ・タイプが医療現場で直面する課題は、その希少性と、標準的な検査では見逃されやすいという二点に集約されます。
検査の罠
一般的なABO式血液型検査では、ボンベイ・タイプの赤血球はA抗原もB抗原も持たないため、見た目上はO型と判定されます。
しかし、もしこのO型と誤認された患者に、緊急でO型の血液（H抗原を持っている）が輸血された場合、患者の持つ強力な「抗H抗体」によって重度の溶血性輸血反応が引き起こされ、生命に関わることになります。
この危険性を回避するためには、特殊な試薬を使った詳細な検査を行い、「抗H抗体」の存在を確認する必要があります。
「究極のレア」としての課題（引用）
輸血の問題は深刻です。彼らが輸血を受けられるのは、世界中で数えるほどしか存在しない、同じボンベイ・タイプの血液だけです。
ある血液学者（仮名：田中博士）は、この課題について以下のように述べています。
「ボンベイ・タイプは、私たち血液学者が『究極のレア』と呼ぶ現象であり、その輸血の計画は極めて困難を極めます。世界中の血液バンクとの連携が必要であり、患者自身が自分の特殊性を理解し、医療者と密に連携を取ることが救命の鍵となります。」
特に緊急手術が必要な場合や、出産時など、大量の血液が必要になった際の対応は、世界的なネットワークがなければ不可能です。このため、ボンベイ・タイプの患者は、事前に自己血貯血を行ったり、専用の血液ドナーを探す努力が続けられています。
4. ボンベイ・タイプに関する重要ポイント（リスト）
ボンベイ・タイプについて、私たちが理解しておくべき重要な点をまとめます。
遺伝的背景: H抗原を作る遺伝子（$H$遺伝子）が機能しない($h/h$)ことで発現します。
抗原: 赤血球上にA、B、Hのどの抗原も持ちません。
抗体: 抗A、抗B、そして非常に強力な抗H抗体を保有しています。
輸血: A型、B型、O型、AB型のどの血液も輸血できません。輸血が可能なのは、世界中で非常に希少なボンベイ・タイプ（$O_h$）の血液のみです。
頻度: 世界的に見ても極めて稀であり、特にインドの一部の地域でやや頻度が高いことが知られています。
5. FAQ：よくある質問
Q1: ボンベイ・タイプは他の血液型に変化することがありますか？
A: いいえ、血液型は遺伝子によって生涯を通じて決まっているため、変化することはありません。
Q2: ボンベイ・タイプであることが判明したら、どのようなことに注意すべきですか？
A: 最も重要なのは、ご自身がボンベイ・タイプであることを証明する書類やカードを必ず携帯することです。そして、緊急時に備えて、ご自身の血液型を専門医や家族に事前に伝えておく必要があります。輸血が必要な際は、専門的な血液センターの介入が必須となります。
Q3: ボンベイ・タイプの子供は、必ずボンベイ・タイプになりますか？
A: いいえ、ボンベイ・タイプになるには、両親から$h$遺伝子を受け継ぐ必要があります。もし、親の一方が$H$遺伝子を持っていれば、H抗原は作られるため、子供はボンベイ・タイプにはなりません（ただし、子供はボンベイ・タイプの遺伝子を保有するキャリアとなります）。
6. まとめ
ボンベイ・タイプは、単なる珍しい血液型の話ではなく、**「血液型の基本的な構造」**を私たちに教えてくれる貴重な存在です。私たちの血液型が、A抗原やB抗原の有無だけでなく、その土台となるH抗原の存在に依存しているという事実。そして、その土台がないことで、通常のO型とは全く異なる、輸血が極めて困難な状況が生まれるということを学びました。
私も今回の調査を通じて、血液学の奥深さと、それを支える医療者の方々の努力に改めて敬意を表します。
私たちは普段意識しませんが、血液型に関わる知識は、いざという時の救命につながる重要な情報です。もし、皆さんの周りでこの話題が出た際には、「O型の中にも、特別な$O_h$タイプがあるんだよ」と、この知識を共有してみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。